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彼にはまず己というものがしっかりとあり、民や臣を自身の言葉で導く強き王だ。
それに比べ、オリアーナにはまず「王族はこうあるべき」という理想像があり、そこから外れる行動ができず、すぐに己を消失させてしまう。
一番卑怯なのは、このままなにも自分で決断しないまま、流されてすべてが終わってしまうことだ。
「もう一度、陛下とお話をします。陛下の妃として残るのなら、今のままではいけませんから。戦を防ぐ手立てが、私の帰国だけだなんて……そんな決めつけで考えることを放棄しては、王妃失格です」
それがオリアーナの今の率直な気持ちだ。バルツァーに話したことで心の中が整理され、より方針が明確になった。
「やはり、あなたは……」
「どうしましたか?」
「あなたは、国王陛下の隣にふさわしい、ヴァレンツの王妃様でいらっしゃいます。強く、平和を愛し、きっと陛下のお考えをしっかり理解して……ともに歩んでいける御方です」
これは、バルツァーに認められたということだろうか。彼は、感情を隠すのが上手すぎて、オリアーナにはわからなかった。
「ちょうどいい……陛下からです」
そうして取り出したのは、なんの装飾もない封筒だ。封蝋もなく、ただ一枚の便せんが入れられていた。
◇ ◇ ◇
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