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いつもは無表情のバルツァーが、めずらしく顔をほころばせる。
「すぐに会える場所にいるのに、わざわざ私を小間使いにするから、なにかと思いましたよ。よかったですね、聖女様。……それでは私は職務がございますので」
よく考えれば、バルツァーは宰相である。一国の宰相ともなれば、何十人、何百人もの人間を使う立場だ。
そんな彼を小間使いのように使ってしまい、申し訳ない気持ちになりながらも、感謝でいっぱいだった。
「バルツァー殿、わざわざありがとうございました」
バルツァーは机の上に置いていた資料を書架に戻してから立ち去った。
入れ違いになるようにして、カーヤが紅茶やお菓子を持って戻ってくる。いつものように空中庭園のテーブルにそれらを並べはじめた。
「カーヤ! 聞いてください」
オリアーナはいても立ってもいられず、カーヤの手を取って握りしめた。カーヤのほうはなぜ支度の邪魔をするのかと首を傾げている。
「陛下が、神殿で会いたいと……花冠をくださるというんです!」
カーヤは一瞬きょとんとしたあとに、神殿や花冠の意味を理解して破顔する。
「よかったですね、オリアーナ様。それにしても怖がらせた詫びなんでしょうか? あの陛下がそんなに譲歩するだなんて、愛されてますね?」
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