それを得た意味

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 俺は自分で言うのは何だが先進国に住んでいる者としては不幸な人生を送ってきたと思う。幼少期は父親の虐待におびえ、学校に入れば事故で死んだ父親の呪いと思えるほど小・中・高といじめを受ける中心人物となった。家では優しい母親を心配させないために表面上の笑顔を振りまき、奴らと俺は違うのだということを証明するために必死に勉強した。同じ高校の誰よりも勉強に力を注いだ俺はなんとか超一流大学に進学、しかし大学でも今までの環境で人間不信に陥ったみじめな男に居場所はなく友人もなくただひたすら泣く変わりに勉強に走った。その後卒業した俺は今までに関わってきたすべての者を見返し、見下すために学者となり研究にいそしんだが年が過ぎるたびに後輩に成果を抜かされていき惨めになっていった。そんななかで唯一の味方であった母親も病死してしまった。もう俺には帰る場所すら残っていないのだ。  だがそんな惨めとも今日でさらばだ。正しい手段ではないと知ってはいたがもう成果もなく40を過ぎてしまった俺には魔術なんていう胡散臭いものしか手札がなかった。自分を嘲笑しながら作り上げたこの結界内に英知を授けるという悪魔の召喚に成功したのだ。 「英知を授けるといわれる悪魔よ、俺に俺を虐げてきた屑どもを見下すために英知をくれ!悪魔というならこんなシナリオが大好きだろ。」  そんな必死な俺を見て悪魔は嘲り笑う。 「同機は悪くない。だが貴様はおれに何の対価をよこす?何もないではないか。資本も、大切な家族も。」  その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。資本全てをなげうってこんな馬鹿げた魔術に手を出した俺に何が残っているというのだろう。 「ここまでしたのに、何もなしかよ・・。」  もう俺の中には絶望しか残っていなかった。虐げられてきた世でも涙を流すことなどなかった俺の目から熱い汗が流れ落ちる。その様を哀れに思ったのか悪魔が口を開き俺にささやいた。 「おっと、一つだけ残っている物があるじゃないか。それをいただこうかね。」 「・・・俺に何があるというのだ。」 「記憶だよ、記憶。」  ただ虐げられてきただけの記憶だそんなものの需要は俺にはない。 「そんなものが欲しいのならばくれてやるよ。」 「そうか、契約成立だ!受け取れ、これがいまの人間における最高の知識だ!」
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