馬と人

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馬と人

 舗装された、乾いた道に蹄の音が響く。青い空に綿のような白い雲が点々と浮かぶ、晴れた良い日だ。ガシャガシャと重い鎧の重なり合い、ぶつかり合う音がすでに耳慣れた今では、それが心地良くもあった。 「ロメル、もう少し行けば国境だよ」  鎧の兜によって顔が覆われているため、くぐもった声が自らの乗る大きな愛馬に語りかける。馬はそれに応えるようにわずかに首を震わせ、足を速めた。  しばらく進むと、何かあったのか関所のあたりでしばらくの間通行が止められているようだった。  この周辺の国は、現在中央大陸を、東に未だ内戦の絶えないエルトリア帝国、西に産業の豊かなファシーナ皇国、南に近年エルトリア帝国から自治権を取り戻しつつあるフェチニア特別自治国で三分している状態だ。どの国も他国との睨みあいが続き、今のところは危うい均衡を保っている。 「……これは困るねえ。何にしても早くこのエルトリア帝国から出たいのに」  騎手は手慣れた様子で道の脇に馬を寄せ、馬の足を徐々に緩めて止まり、鐙を踏み切って馬の鞍からひらりと地に降り立った。  兜の留め金を弾くようにして外し、息をつきながら取りのけたその隙間から溢れるようにして長く豪奢な金髪が空気を孕んでふわりと背中へとすべり落ちる。その金髪の間から覗く瞳は碧玉のような美しい緑が陽光を受けて強い光を放っている。 「これだから鎧って嫌だよ」  兜を放り、がらん、という鈍い音を聞きながら蒸れたために紅潮した頬に手を当て、彼女はため息交じりに言う。  馬もそれに応えるかのようにすんすんと鼻を鳴らす。  片側を山脈に、もう片側を谷に挟まれた国境への道は険しく、いつも強い風が吹き荒れてまるで女性の悲鳴のようにも聞こえる。  唯一の装飾と言ってもいい鎧に付いた決して華美とは言えないスカート状の腰当て布が巻き上げられてはためく。そのたびに左側に短いが厚さと幅のある剣を二本、帯剣しているのが窺えた。 「国境はまだあと一つ先の関所だし、ここで止まっていてもしょうがないね。行こうか」  馬はやはり彼女の言葉を理解しているようで、言いながらもぐだぐだと休憩を延ばす彼女を、地に放った兜をくわえて見せて急かした。
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