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さあ来い、と早速先導しようとした彼の前には同じく帝国軍の制服を(こちらはかっちりと)着た、いくらか年をくった男が立ちはだかっていた。ただでさえ大きな図体が怒りでさらに厳つくなっている。顔は赤らみ、目がつり上がっている。
「番兵が番をせず、あまつさえ怪しい者を進んで逃がそうとするとはどういうことだ」
形だけはなんとか疑問形を保っているものの、彼の言葉の中に取り付く島など、初めから用意はされてはいなかった。
クィリスと呼ばれた男をきっ、ときつくねめつけてから溜め息をつき、ひたりとこちらを見据えた。
「おまえの罰は後だ。そこの者、名乗られよ。現在国民に帯剣を許していないこの国でそのような出で立ちをしている理由を聞かせてもらいたい」
どうやらこの男はクィリスのように簡単に通してはくれなさそうだった。嘆息すると、彼女は観念して口を開いた。
「私の名はローチェ・イブロディという。フェチニア特別自治国の使いとしてやってきた。今は、用を終えた帰りだ」
その証明である刻印のついたチップを見せる。言外に早く通せ、と言ったのだが、伝わっただろうか。
「なるほど、これは失礼した。ではクィリス、イブロディ殿を案内してやれ」
さすが仕事が早いだけはある、素早く理解してこちらの意図をくんでくれた。内心で冷や汗を拭ってほっ、と息をついた。私はなんとしてもこの国から出ていかなければ。
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