馬と人

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「ここから国境までどのくらいかかる?」  二頭の馬を走らせてから大分経った。山道に入ったときには高かった日も、そろそろ一日の仕事を終えて休みたそうに橙を藍色に滲ませている。加えて場所が場所なだけに、ローチェ達は一足先に薄暗い闇にまとわりつかれていた。  特に足場が悪いわけではない山道だが、クィリスを乗せている馬はエンテッド種という大型で足の遅い種類の馬だったためローチェ一人で馬を駆るよりも時間を大幅に食っていた。対してローチェの愛馬であるロメルはコルトニック種という速さに特化した種類の馬で、大型で持久力もあるために進む速度に大きく差が出ていた。 「まあ、このまま行けば明日の昼くらいじゃねぇの? すまねえ、こいつ鈍足でね。関所には今最速のタチコート種の馬がいねーから」 「……また内紛か。鈍足などと、その馬はどの種類の馬よりも重い荷に耐え、運べるじゃないか。それに今こうも遅々として進まないのは、お前のその荷のせいだ。半日の距離でなぜそこまで荷が大きくなるんだ」 「いや、これは食糧。俺が食うんだ。それにそれしか取り柄がねえ馬なんだから使ってやらねえと。そういやあんたの馬は、そりゃフェチニア産のコルトニックだろ? 確かタチコートとエンテッドの交配種で万能型なんだよな」 「別に、万能型というわけではない。確かに速いけれど足に負担をかけられず、荷を運ぶことはできないから」  確かに内紛絶えないエルトリア帝国では機動力の高いタチコート種が原産であるし重宝されるが、何もそれだけで価値が決まるわけではない。
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