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「じゃ、あんたにゃ悪いが野宿になるぞ」
「いや、慣れているし構わないよ」
しばらく進み、もう辺りはほとんど真っ暗であったが日が完全に暮れる前に休むことにした。ローチェとしては夜中移動を続けても良かったのだが、エンテッド種は夜目が聞かないうえ何より馬が疲弊しているのでそう決めたのだった。
ローチェは何よりもまず疲れている馬を木につなぎ、食べ物と水を与えて休ませた。そのあとにのそのそと自らの支度を始めたとき、何かの気配を感じた。しかしそれはすぐに消えたため、疲れていただけかとも考えた。
それでも自然と感覚が研ぎ澄まされ、確かに何かがいるのだと自身に告げる。こういうときの勘はよく当たるので、警戒を解くことはしなかった。
今はまだ何がどこにいるのかわからないので狙い自体はアタリが付いているものの、どうすることもできない。
詰めていた息を吐き出して、慎重にクィリスの馬の荷を一つずつ外してやった。
「ローチェ、あんた寝るのはどうする?」
馬の荷を半分ほど外し終わったとき、何の気なくかけられたクィリスの言葉を皮切りに気配が動いた。
近くにいたロメルが何かに反応し、いきなりローチェを体で突き飛ばした。
咄嗟のことであったがなんとか受け身をとると、苦痛で鼻息も荒くいななく興奮状態のロメルが見えた。視線をずらせば、右の尻に矢が半分ほど突き刺さっている。
ローチェは急いで跳ね起きた。
「クィリス! 私の馬に乗って逃げろ!」
叫ぶと同時に腰の剣をさっと抜き、二頭を木につないでいた紐を切り落とした。
クィリスは何が何だかわからない顔をしていたが、ローチェの声を聞くとすぐに言葉に従った。矢が刺さったままのロメルはとても辛そうであったが、今ここで処置も満足にできないまま矢を抜いて放置すれば血液を大量に失って死んでしまう。助かったにしろ細菌が傷口から侵入すれば化膿して足が駄目になってしまう。立てなくなれば馬は自らの体重に負けて死んでしまう。それだけは何としても避けなければならなかった。
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