馬と人

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 クィリスの馬は竦み上がっていてまともに動けるようには見えなかったが、なんとかなだめて走らせることができた。  途中、馬とローチェは何度か躓いたり木に掠ったりした。夜目が利かず何も見えない中でもローチェの為に走ってくれているのだからと懸命に手綱を握っていたが、焦りと不安と心配で集中を一つに定めることができなかった。  突然右横から弓の弦の震える音が聞こえて、目の前を矢が掠めて行った。感心するほどに訓練されていて、蹄の音を最小まで抑えられていたために並走されていても気が付くことができなかった。もしもう少しでもずれていたら自分の頭に突き刺さっていたのだと考えると、ぞわりと悪寒が背筋を走りぬけ、冷や汗がふき出た。  できれば横を見て避けたいのだが、そうすると馬に指示を出せず木に衝突してしまうだろう。だからといって矢を避けることを諦めることを選ぶことなど、絶対にお断りだ。  ふっと短く息をついて左手で手綱を握ると、右手に剣を持ちかえて音を逃さぬよう拾うためにひたすら耳をそばだてた。  少しの間をおいて飛んでくる矢をどうにか避けたり叩き落としたりしながら徐々に馬を近付けていき、相手の位置を把握できるところまで至ったときローチェは飛んできた矢をかわしてすぐに剣を鞘に戻し、兜を手に持ってわずかな間横を向いて矢をつがえている最中だった男めがけて兜を投げつけた。  見えはしなかったが、どうやら命中したようで後方でドサッと落馬する音と馬の驚いたいななきが聞こえた。
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