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あれからずっと馬を飛ばしてやっと山を抜けたころには朝日が眩しく輝いていて、暗い山道を駆け抜けた目を灼いた。
山を抜けてしばらく行くと、どうやら国境付近に来ていたらしく国境の関所が見えた。クィリスとロメルを探さなければならなかったが、まずは一晩中真っ暗闇の中を走ってくれた馬を休ませたかった。
入国したときの記憶を辿って確か近くに大きな湖があったと思いだし、そこで休ませることにした。
「怖かったでしょう、痛かったでしょう。本当にありがとうね」
言いながら体をさすってやり、あちこちに出来ていた擦り傷切り傷は水で綺麗にしたあと常備していた薬をつけてやった。
「あ、いた。おーい」
声のする方を見れば、クィリスとロメルがこちらにやって来ていた。ロメルは傷口にきちんと包帯が巻かれ、若干足を引きずって入るものの歩けている。
ロメルはローチェを認識すると耳を立ててぱっと顔をあげ、足が痛むのも構わず駆け寄り大型な自分よりも随分と小さな彼女にすり寄った。嬉しそうに足を踏みならして時々よろけながらもローチェから離れようとしなかった。ローチェもロメルの無事を確認することができて安心し、すり寄ってきたロメルの首を抱きしめて青みを帯びた黒毛に顔をうずめた。
「ロメルの介抱ありがとう。助かった」
しばらくロメルと戯れたあとにローチェが礼を述べると、クィリスは嬉しいような情けないような変な顔をした。
「いや、俺こそ礼を言う。ほんと助かったぜ」
それはそうと、とそわそわと居住まいを正してクィリスはローチェと目を合わせた。
「なぁ、あれが身分が枷になるときか?」
「まあ、そうね」
「あんたは、なんだ?」
おかしな聞き方だと思った。しかし同時になんと上手い聞き方なのか、とも思った。本当はあまり言いふらしたい話ではないが、ここまで巻き込んでおいて事情さえ聞かされないのはあんまりではなかろうか。
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