第3話:また明日会えるように

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 スケッチブックに記録を付け始めた美琴は、記憶こそ戻らないものの、僕の存在を理解してくれるようになった。美琴にとっては毎日初めて会う僕なのだけれど、スケッチブックに刻まれた出来事の記録は、昨日の僕と今日の僕を繋いでくれる唯一の物語として、彼女の風景を支えていたのだと思う。  二学期が始まり、美琴に会える時間は、病院の面会時間の終わり迫る夕刻だけになってしまった。いつものように、薄暗い病棟の廊下を歩いていると、向かいから同じ高校の制服を着た女の子が向かってくるのに気が付く。 「飯田……」  隣りのクラスの飯田沙織(いいださおり)は、美琴とは中学時代からの友人だった。 「美琴の意識が戻ったって連絡があったから。楓太くん、毎日ここに通っているの?」  飯田は美琴と僕が付き合っていることも知っている。 「うん、まあ」 「私のことは覚えていたけれど……」 「記憶のこと、聞いたか?」 「うん……」 「そうか。いつか元に戻るって、そう信じるよりないけどな……。じゃ」  僕はそう言って、飯田をその場に残し、面会時間の終了が迫る美琴の病室へ足を向けた。 「新しいことも覚えられないって、美琴のお母さんから」  飯田の少し大きな声が廊下にこだまする。その声にこもった感情に、僕は思わず後ろを振り返った。 「颯太くん、苦しくないの?」 「えっ?」 「大好きな人に忘れられて、やり直したくても、もう美琴は楓太君のこと覚えていられないなんて……」 「飯田?」     
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