第4話:記憶の欠片を拾い集めて

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「私はキミとは一緒にいられない。どうしたって私は私じゃなくなるの。キミに辛い想い、これ以上させたくないよ。だからもう、お互いに忘れた方がいい。中途半端な記憶でつなぎとめられるほど、感情は単純じゃないのっ」 「感情は単純じゃないかもしれない。だけれど、誰かを想うのに複雑な理由なんかいらないだろっ」 「嫌って」  美琴はスケッチブックを掴んだ右手を高々とあげる。それは、これまで少しずつ積み重ねてきた僕らの物語、そして美琴にとって、僕という存在の全て。 「何してんだ」 「お願い、私を嫌って。こんな私をもう忘れてっ」 「そんなこと、そんなことできるわけない」 ――美琴は楓太君をいつだって忘れられる、でも楓太君はいつまでも美琴を忘れられない、そんなの不公平よ。  悲しみと苦しみにまみれた飯田の言葉が、僕の頭をスッとよぎっていく。 「明日に続かない。私は時間に閉じ込められているの。時間の檻の中にいるのよ。これから先もずっと。でも、楓太は時間から自由になるの。ここにいてはいけないの」  美琴はそう叫ぶと、スケッチブックを一枚一枚破っていった。 「やめろっ」 「さようなら」  破り捨てられたスケッチブックの断片が海風にあおられ、朱に染まる空に舞う。美琴は僕を忘れたんじゃない。自らの意思で僕の記憶を捨てたんだ。 ★     
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