第1話:夕景に奪われる感情

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 机の上には、美琴の写真が置かれている。あの砂浜で僕が撮ったものだ。何も変化のない日々。変わりない、というのはしばしば大切なことだと思う。しかし、変化の無さはまた、希望を損なわせる力を併せ持っている。もう一度、君の声を聴きたい。そう願わずにはいられないのだけど、願い続けるだけの心の強さを持てるほど、僕には余裕がない。  写真たての脇に置いた携帯端末が鈍く光を放ち、着信を知らせていた。重たい体をベッドから起こし、暗い部屋にぼうっと浮き上がる端末に手をのばす。画面を確認すると着信は、美琴の母親からだった。 『颯太君? 美琴の意識が戻ったのよ。今日はもう遅いから明日にする?』  それは確かな奇跡だった。時刻を確認すると十九時を少し回ったところだ。自宅から病院までは自転車なら十五分ほどしかかからない。 「いえ、今から行きます」  止まってしまった一カ月という時間が動き出す。僕はそう信じていた。
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