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第4話:記憶の欠片を拾い集めて
「美琴っ」
案の定、病室には誰もいなかった。開け放たれた窓から吹き込む風に、白のレースカーテンが揺れている。微かなはずの波の音がいつもより大きい。ゆっくり深呼吸して部屋を見渡すと、ベッド横に置いてあるはずの車椅子がないことに気が付いた。
「まさか……」
病室を出ると、屋上へ向かう階段を駆け上がる。息を切らしながら屋上へと続く扉を開けると、海から吹き込んでくる風が勢いよく舞い込んできた。鋭く刺しこむ西陽に思わず目を細める。陽射しを左手でよけるようにして目を凝らすと、車椅子に座り、柵越しに海を眺めている美琴の後姿があった。
「美琴、戻ろう。今日は冷えるから」
「キミは誰?」
彼女の右手にはスケッチブックが握られている。
「前島楓太だよ」
何度目だろう。彼女に自分の名前を伝えるのは。
「颯太……」
こちらを振り返った美琴の瞳には涙が溢れていた。
「飯田に、何か言われたのか?」
「私はキミを忘れる。だけれど、キミは私を忘れられない。それが、どれだけ苦しいことかさえ、私にはわからない」
「俺は大丈夫だから」
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