第2話:積み重ならない景色

1/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

第2話:積み重ならない景色

 病室の扉を開けると、ベッドから上半身を起こしていた美琴(みこと)は、僕にゆっくり視線を向けた。 「美琴……」  面会時間はとっくに過ぎていたが、家族という事にしてもらい、特別に入室を許可してもらうことができた。美琴は少しだけ痩せてしまったけれど、一か月前と変わらない大きな瞳で僕を見つめていた。 「美琴、颯太(そうた)くん、来てくれたのよ」  彼女の母親はそう言うと、僕をベッドわきにおいてある椅子に座るよう促す。 「美琴、大丈夫か?」  椅子には座らず、ベッドの脇で彼女の白い手を握る。すると彼女は振りほどくように手を払いのけ、明らかな敵意を含んだ表情で僕をにらみつけた。 「キミは……誰?」 「えっと……」  美琴は、言葉に詰まる僕から視線を外すと、「お母さん、この人誰?」と言って母親を見上げる。 「美琴? 楓太くん、前島楓太(さきしまそうた)くんでしょ? 毎日お見舞いに来てくれていたのよ、そんな言い方しなくても」 「こんな人、知らない……。出ていって」  僕の体が現実を受け入れることを拒否しているように、足が勝手に後ずさりを始める。 「あ、あの、今日は帰ります。お騒がせしてすみません」     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!