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#1
僕は世間というものが嫌いだった。狭い箱に知らない人間同士を整列させる仕組み。ごめんねと言われたら許さなければいけない決まり。空は青いとみんな言うのだから青い。同じ方向に首を振らなければ向けられる好奇の視線。うるさいうるさいと片付けて、しかし声に出して言う気力もなく、結局殺すのはいつも自分の方だった。だからこんな世界は滅びてしまっても困らなかった。非道徳的であろうと、僕にとっては本当にどうでもよかったし、現実に滅びるはずがないと思っていたからなおさら軽率にそう願うこともあった。
長い年月をかけて環境と電子デバイスと鉄筋コンクリートと人の手が複雑に絡み合ったこの世界はそう簡単にほどけない。綻びがあっても、何か、誰かが修正できるようにほとんど仕上がっている。万が一この巨大機構が崩れ去る時は、人より腕力の劣る自分なんて何も分からないうちに消えてしまうだろうと当然のように思っていた。
世界なんて終わらない、または、世界と同時に自分も消えるから、終わったとしても認識できない。
そういう算段のはずだった。
中空に鎮座する丸い夕陽は今にも血を零しそうな色をしているのに、真っ赤な夕焼け雲は流れることなく空を覆ったまま静止している。生きた人の気配もなく、風も遠い地鳴りもなく、荒廃した街並みはただ静かにそこに在った。僕が何度呼吸をしても、塵一つとして動かない。僕の呼吸がまるで嘘のようだった。時が止まっているのか。夢かもしれないが、夢でないのなら、これは紛れもなく世界の終焉の姿だ。
万が一の可能性で、世界は終わってしまった。大勢の人々の生活が突然にして失われた事実がそこらじゅうに転がっているわけだけれど、この光景を目の当たりにしても僕の性根も改まることはなく、心底どうでもよかった。問題は、どうやら僕一人だけ残されてしまったというところだけだ。これは誤算だった。僕からの誰宛でもない無意味な報告は、以上。
どうして、僕はまた『ズレ』てしまうのか。ついに最後まで上手く生きさせてくれなかった。言葉にならない感情に打ちのめされ、荒地に項垂れた。
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