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僕はとある施設の研究員だった。人の目を避け、人を目に入れたくないがために、自然と行き先は地下へと向かっていった。自然の音や光や雑踏から隔絶された地下の研究室で生活の全てを行なった。寝るか食べるか以外では、それはもう真面目に仕事を続けて何年経ったかも分からない。
昨晩は、普段は自重している酒に手を出して溺れた。おそらく大した意味はなく、これまでも時々気分が非常によくなる時があった。そういった時は腹の底にしまいこんでいた怒りが前面に主張してくる。所謂、ハイ状態だ。もう何年も顔を付き合わせていない世間様への不満を酒で紛らわした。独り言でも言う癖があればまだいいものの、抑圧され凝り固まった精神では、誰も聞いていないとしても不用意に言葉を零すことは出来なくなっていた。作業もひと段落した昨日はパソコンのスクリーンも真っ暗で、好んで使っている小さな灯火しか付かないランプだけが無骨な部屋を照らしていた。このまま寝てしまえと、物置と化したデスクからしばらく使っていなかった寝巻きとタオルケット を乱暴に引っ張り出した。ほとんど意識は朦朧としており、何かが一緒に引きずられて落ちたが聞かないふりもでてきてしまうほどだった。このまま寝たい。もう何も考えたくない。怒るのだって疲れるのだ。僕がたった一人で狭い研究室にこもって青いモニターに並ぶ数列を指先から丁寧に吐いて並べているうちにも、太陽は昇っては沈み馬鹿みたいな会話がコンクリートの上を埋め尽くしている。やりきれない。あと何年かかるのだろう、この積年の怒りを本当に手放せるようになるまで。生きている人間の中では上手く孤立できている方だ。目の前のパソコンより役に立たない馬鹿な世間や、誰かが人のために作ったガラクタは、そうだ、なくなってしまえ。馬鹿げた願いを煙草の火と一緒に燃やした。久しぶりかつ大量に摂取したアルコールはすぐに意識を乗っ取りはじめ、蹲るように体を丸めて目を強く瞑ると心地よく意識がぐにゃりと曲がった。
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