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しばらくして目を覚まし、不鮮明な頭で見渡した6畳ほどの研究室は、いつもより少し散らかっていたが、相変わらず心地いい孤独だった。久しぶりに感情が頭をもたげたが、またすっかり姿を忍ばせていた。シーツがグチャグチャなベッドから起き上がり、部屋の中心に立つ。主な作業用デスクにはデスクトップパソコンが二台。サイドテーブルにはほぼ私物のノートパソコンが一台。窓はない。空模様で天気や時間を確認したことは久しくない。ここは地下深くに隔離された僕だけの世界だ。
もう一つ作業台として用意された大きなデスクは物置になっていて、そういえば昨日寝巻きやらを引っ張り出した時に、手前にあるものが何か落ちたな。床に目をやると、落ちたらしきものは部屋に唯一ある正確なデジタル時計だった。衝撃で蓋が欠けて電池が抜けてしまっていた。煙草の火はまだついたままだった。この部屋は風もない。
この時計は私物ではなく、ここに来た時からあった。研究に必要な電子機器と同じ支給品のようなものだろうか。世界で一番正確なデジタル時計だから大事にするようにと言われていたが、そんなの衛星から受診していればどれも同じくらい正確だし、世界で一番と言われても何を基準に言われているのか分からなかった。とりあえず大切にしていた。昨日までは。寝る前に落としたのはこれだったのか。落としただけで蓋がダメになってしまうなんて、ガタがきていたから大事にするように、という意味だったのだろうか。電池も一度も変えたことがなかったから、ついでに変えておこうと、文房具がしっちゃかめっちゃかに詰め込まれているメインデスクの引き出しを開けたが、電池は入っていなかった。
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