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彼は大学の競技ダンス部の先輩で私は二個下の後輩。男女がペアになって踊る競技ダンス部は常に恋の香りが渦巻いている。私が一年生の時の夏合宿で早朝マラソンをしている時のことだった。私は坂道を登る途中で貧血を起こして倒れ、少し後ろを走っていた彼が駆けつけて、身長165センチの私をひょいと持ち上げるとお姫様抱っこのまま合宿所まで運び、その後も病院まで付き添ってくれた。彼は後輩の女子たちの憧れの王子様で、私もそのうちの一人だった。意識朦朧とし吐き気をこらえながらも彼の腕に抱かれている感覚だけは私の胸を甘く疼かせた。それ以来彼と会話したり練習相手になってもらう機会が各段に増え、お互いに意識するようになっていった。そして、10月のダンスパーティーでワルツの相手を申し込まれたのだ。黒いタキシードに身を包んだ彼はスポットライトの中で私に向けて手を差し伸べる。白いドレスを着た私は軽やかな足取りで彼に駆け寄り腕を組む。呼吸を合わせて一歩目を踏み出し、あとはワルツのメロディに乗せて流れるように踊る。ウィスクのステップで二人の顔が近づいた時、「俺と付き合って。」と囁かれた。かっと顔が赤くなるのを感じながらシャッセのステップに移り、「いいですよ。」と答えた。まるでシンデレラになったかのような気分になり、このまま時が止まって欲しいと願った。
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