彼を待つ部屋で

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「別れる?なんで?」 「もうお前のこと好きじゃないから。というか前から嫌いだったし。」 「じゃあなんで今まで付き合ってたの?」 「お前のこと嫌いだから最後にズタズタに傷つけてやりたかったんだよ。」 もうそのあとの彼の言葉は覚えていない。彼と私は部活仲間と一緒にコンパに行き、その帰り道で突然別れを切り出された。彼はかなり酔っぱらっていてこれまでの鬱憤を晴らすような口調だった。そして耳を疑うような言葉でプライドをズタズタにされたのだ。別れたい理由は、私が他の女子部員たちに彼とのプライベートなことを話して彼女たちに気まずい思いをさせたから。確かに私は彼を独占できることに優越感を感じ、調子に乗っていた。でもそれは女子同士の恋愛話の中でのことで、むしろそれを彼に密告する方があざといのではないか。好きな人からここまで嫌われて憎まれたことなど初めてのことだった。私は泣いて「やり直したい。」とすがったが、彼は聞く耳を持たなかった。  数日後、彼の部屋に置いてあった私の荷物を取りに行った。彼と顔を合わせたくなかったので彼がいない時間に合鍵で部屋に入った。もうこの部屋に来ることはないのだ。一緒にお風呂に入ったり、料理を作ったり、床に転がって音楽を聴いたり、ベッドで愛を語ったりすることもない。全部私が悪い。嫌われてしまったのだ。ふと、机の上に視線を向けるといつもとは何か違うことに気づいた。写真だ。今までは淡いピンク色のドレスを着た私と彼が踊る写真が入っていたのに、今は真っ赤なドレスを着た女と一緒に写っている。彼女は私と同期のレイコだった。半年前にあった秋のダンスパーティーでペアをシャッフルして踊った時に彼とレイコはワルツを踊ったのだ。これは恐らくその時の写真。つまり、彼は単に私が嫌いになっただけでなく心変わりしたのだ。女子部員の密告もレイコが言ったのだろう。そうと気づいた瞬間、彼とレイコへに対する嫌悪と軽蔑に心が包まれていった。 私はベッドに仰向けに横になり、深呼吸した。この小さな部屋を私は気に入っていた。窓から差し込む陽光が気持ちよくて、真っ白な壁に映える夕焼けも素敵だった。彼と過ごしたこの部屋にいつかまた必ず戻ってこよう。永遠に同じ場所を巡るワルツのステップのように。  そうして私は一度この世から退出し、彼の部屋に戻ってきたのだった。
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