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一段と明るい街灯のそばを通過する。光の下を通ったナナが、一瞬だけ神々しくハルミには見えた。
「無意識におしぼりのウサギを作ってるのも、粘土のウサギを褒めてくれた人がいたからでしょ。そういうことじゃない?」
忘れたかった思い出という荷物を捨てたはずが、どういうわけか何年かぶりにハルミのもとへと戻ってきた。これまでだったら、再び捨て直していただろうなとハルミは思う。でも今は、その荷物の箱を開けてみようかという気になっていた。むかし書いた日記を読み返してみるように。
「実はあの頃、ジュンくんにひどいことを言われたんだ、私……」
「ああもう、そういう暗い話はまたの機会に聞くから。後ろ向きな思い出じゃなくて、美術部の人のこととか、ハッピーな思い出をちょうだいよ」
「ナナ……。そうだね。名前、わかるといいなあ」
駅が近づいてきた。街灯も増え、周囲の明るさが徐々に増していくのがわかる。乗る電車が違うため、二人は改札を入ってすぐに別れた。次は口座の残高でおごりなさいよ、と三人のグループチャットにナナの書き込みがあったのは、ハルミが家に着いた頃だった。
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