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引っ越してからも、娘がナナと仲が良いということを母親は知っている。折りにつけ、ハルミがナナの名前を出していたからだろう。
そんなタイミングで、ナナからのメッセージがグループチャットに届いた。
『美術部にいた子と連絡とれたよ。五十嵐っていう先輩男子がいたみたい』
「ああ、そう!」その文字を見た途端、ハルミは声を上げた。
五十嵐。初めて目にした時、なぜ「イガラシ」と読むのかを迷った名字。決して珍しい名字ではないが、ハルミたちの学年にはおらず、その後の高校、大学でも身近なところにいなかったこともあり、ハルミにとってその名字はレアという意味でもバリューという意味でも貴重だった。
五十嵐。懐かしさ、嬉しさ、気恥ずかしさ、様々な感情が久しぶりに目にしたその文字づらから溢れてくる。はっきりとした記憶がないにも関わらず、【秘密の質問】の答えがそれしかないというような確信がハルミには生まれていた。可憐と言ってくれたあの先輩は、きっと五十嵐先輩だったはずだ。早く家に帰りたい、早く【秘密の質問】の答えを入力したい。
「食事のときぐらいメールはやめたらどうだ」
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