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0 彼氏と彼氏との新事情
同じ会社に勤めるルームメイトとしては二か月間、恋人としては一か月間、計三か月間、瀬田と一緒に暮らしてきた秋川だったが、未だに彼の全ては知らないのだろうと考える。
大学時代も二年間だけとはいえ同じ部活に所属していたのに、秋川は瀬田のことは知らなかった。いや、知ろうともしなかった。
まるで眼中になかった。
今までに付き合ってきたそう多くはない相手たちにも、秋川は彼氏の立場の下に、情報開示を迫ったことは一度もない。
自分がされたら嫌だというのが一番の理由だったが、相手たちも皆、そうに違いないと秋川は思っていた。
つい最近までは信じて疑いもしなかった。
しかし、瀬田と付き合うようになってからは、本当はもっと相手に心に踏み込んだり、立ち入ったりするべきだったのではないか?と思い直すようになった。
何しろ特別な存在、恋人同士だったのだから。
恋愛に限ってだが瀬田は一事が万事、秋川とは正反対だった。
少なくとも秋川にはそう思えた。構ってほしい時もうれしい時も、瀬田は先ずは言葉で、続いて行動で秋川へと示してきた。
そんなにも判り易い、もとい真っ直ぐな瀬田だったから、鈍い秋川もさすがに気が付いた。
ここ一週間程、瀬田は秋川のことをあからさまに避けていた。
以前付き合っていた相手に、一か月近く連絡をしなくても平気だった秋川とは次元が違う。
秋川が自分の部屋を訪ねて来なければ、自らが進んで秋川の部屋へと乗り込んで来るような、開拓精神?溢れるアノ瀬田が、だった。
ようやく倦怠期に入ったのか?と気を紛らわせるように秋川は思ってみるも、そういうことではないのはよく分かっていた。
セックスレス(と言っても、たかが一週間だったが)は確かに問題だったが、それが一番のではけして、ない。
秋川にとっては瀬田が何かを隠しているが故に、自分を遠ざけていることが一番の問題だった。
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