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瀬田も、秋川と同じ理由かまでは知らないが、社内では秋川のことを名前では呼んでいないはずだった。
確か、先輩と呼んでいた。相当に切羽詰まってるな。と秋川はにらんだ。
「瀬田・・・・」
ここじゃ何だからと、言い掛けた秋川の視界にヨシトの姿が入ってきた。
「誰、アンタ?用ないんだったら、あっち行ってくんない?邪魔なんだけど」
初対面の人間へと、絶対にやってはいけない挨拶の見本の様な態度と口調とで、ヨシトが秋川へと話し掛けてくる。
瀬田越しにだったが、秋川はやっと、噂のカリスマフォトグラファーの姿を真正面から拝むことが出来た。
年齢は恐らく、三十代半ばだろう。それ相応に世慣れてはいるが、まだ若さも十分に有している。
苛立っているのを少しも隠さない、隠そうともしない仏頂面だったが、なるほど石サバが自分に探りを入れたくなるのが、秋川には分かる様な気がした。
人によって好き嫌いは分かれるだろうが、ヨシトは実に整った顔立ちをしていた。
瀬田とは正反対の濃いアクの強い造りだったが、険しさと甘やかさとのバランスが絶妙で、人目を惹き付ける。天然だか施術だかは判らないが、ウェーブのかかった長めの黒い髪がむさくるしくではなく、エキゾチックにすら見えた。
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