1 元カレVS今カレ 第一ラウンド

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 ようやく来たエレベーターに乗り込んでからやっと、秋川が瀬田の腕を放した。 「慎一さん、あの・・・・」  言い掛けた瀬田の首へと、秋川の手が伸ばされる。 「経理部に来る前に、トイレ寄ってけよ。ネクタイ曲がってる」 「あ・・・・」  秋川は実際には瀬田の首には触れなかったが、瀬田は弾かれた様に退いた。勢い余ってエレベーターの壁に背中がつく。  そのあからさまな怯え様に、今、他の誰かが乗り込んできたら絶対に、セクハラをしているのはおれの方だと思われるな。と秋川は内心苦笑した。 「すみません」  小さな声で謝る瀬田へと、掛けるべき言葉が思い付かない秋川は、エレベーターが二階に着いてから、 「先に行ってる」 と言うのが精一杯だった。  自分とは時間差で、経理部へとやって来た瀬田へと空の経費の申請書を手渡す際に、秋川はチラリとその襟元を確かめた。 先程、ヨシトに乱された跡は今は全くなく、秋川は悪い白昼夢でも見たかのような気分に陥った。 「適当に書いて出せ。処理しないから」  そう、瀬田へと小声で言う。本来ならば、空の書類はデザイン部以下各部署に常備されているので、不自然極まりない行動だった。 人目の少ない、昼休み中で本当によかった。と秋川は思った。 「ありがとうございます」 殊勝にも頭を下げ、書類を押し頂く様に受け取った瀬田が戻って行った後の、午後の間中ずっと、秋川は考えたくもないギフトのことを考えていた。  そこには、アジフライ定食が割り込む余地はまるでなかった。
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