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「付き合っていたのはほんの数か月です。半年にも満たなかった。でも、その時に写真を撮られたんです。その、ものすごくプライベートなのを」
「・・・・・・」
「別れる時にその写真を全ておれに渡すか、目の前で破棄するように求めましたが、聞き入れてもらえませんでした。あれは自分の作品だから。の一点張りで。ただ、おれに無断では発表しない。とは約束してくれたんです。不安だったんですけれども、その言葉を信じるより他に何も出来ませんでした。だっておれ、彼に撮られている時、気持ちがよかったんです。選ばれたんだって、うれしかった。本当にバカでした。あの頃のおれは、何も考えてなかった」
「晴季・・・・・・」
秋川は瀬田へと呼び掛けてはみたものの、言葉が続かなかった。
居たたまれなくなり、麦茶のお代わりを注ぎにキッチンへと逃げ込む。
水出しのそれはノンカフェインのはずなのに、やけに渋く感じられた。かえって喉が渇く。
瀬田も又、秋川と同じだったのか、秋川が持って行った麦茶のお代わりを、やはり今度も一息で飲んだ。
文字通り、自分も瀬田も一息ついたところで、秋川が尋ねる。
「で、そのカリスマフォトグラファーは、仕事で再会したおまえに、寄りを戻そうって言い寄ってきたのか?」
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