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午前二時近くに帰宅した瀬田は、居間のソファーに秋川の姿を見つけて、明らかに驚いた表情をした。
「・・・どうしたんですか?」
ただいま。も言わないで開口一番ソレかよ?と秋川は内心苦笑したが、それは少しも顔に出さずに、
「何だか寝付けなくて。おかえり。遅かったな。忙しいのか?」
と平らかに言った。
瀬田は心持ちうつむき加減で、早口で答えた。
「えぇ、ちょうど大きな仕事が動き出しそうなので。それで今、バタバタしています。もう、寝ますね」
やはり、おかしい。変だ。と秋川は確信した。
何時もの瀬田であったのならば、
「眠れないんですか?じゃあ、おれと一緒に一汗かきませんか?グッスリ眠れますよ」
と、セクハラ・フィットネスインストラクターさながらにいやらしく微笑んで、秋川を自分の部屋へと引っ張り込み、くんずほぐれつの全身運動に励むに違いない。
今となってはスラスラと思い浮かぶ自分が、秋川は怖いくらいだった。
居間を出て行こうとする瀬田の手を、秋川は取った。
「慎一さん?」
「晴季、もし、何か困っていておれに話せることだったら、何でもおれに話してくれ。おれに出来ることはないかも知れないけど、話を聞くことくらいは出来るし、おれもおまえの話を聞きたいと思っている」
「・・・・・・」
まるで、食欲がないワンコの前に、何時でも食べられるようにとエサを置くのにも似ている。
我ながら過干渉、又は過保護かな?と秋川は思ったが、瀬田はそれなりに煮詰まっているらしいし、これくらいはしておいてもいいだろう。と都合よく理由をつける。
さらに秋川は瀬田へと、とどめを刺した。
「何があってもおれは、おまえの味方でいたい」
「慎一さん・・・」
「おやすみ。晴季」
一度だけキュッと力を込めて自分の手を握り、そして直ぐに放した秋川に瀬田は、
「おやすみなさい」
と返して、自分の部屋へと引き上げて行った。
今、言うべきことは全て言い切った。
瀬田の姿が完全に見えなくなった途端、気が抜けたのか、秋川は大きなあくびをした。
眠いのを通り越してめまいがする。
何時もの夜であれば、夢の一本や二本見ている時刻だった。
瀬田に続いて、秋川も自分の部屋へと引き上げた。
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