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「慎一さんって、演技巧いんですね。ビックリしました」
「巧くなんかないさ。小芝居なんて、小学校の学芸会で『仔ダヌキその3』を演じて以来だよ」
「仔ダヌキですか?観てみたかったなぁ。可愛かったでしょうね・・・」
「おれが小二だから、おまえは六才の時だぞ?ゼッタイにおまえの方が可愛かったと思うが」
そんなどうでもいいことを秋川と言い合っている内に、瀬田は決意が固まった。
秋川の手を強く握りしめる。
「おれ、もう一度だけ撮られます。それで円く収まるのなら、いいです」
「本当に、いいのか?」
「え?」
「本当に、おまえはそれでいいのか?って聞いてるんだ?おまえはあいつの前に、前と同じ様に又、立つことが出来るのか?」
「それは・・・」
瀬田は言わなかったが、本当は嫌だった。
今は、やっと手に入れた秋川という名の幸せがある。
不幸にどっぷりと浸かり、何でも出来ると勘違いをしていたあの頃の自分とは違う。
違うはずだと、瀬田は思いたかった。
しかし、いくら会社が性的マイノリティに配慮しているからといえ、自分はもちろんのこと秋川の為にも、カミングアウトは避けたかった。
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