128人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
千鳥足の翔一郎さんを支えて歩く隆宣さんの後ろから、俺は翔一郎さんの荷物を抱えてついていった。抱えた荷物が、胸の鼓動で弾みそうだ。そのぐらい、心臓はバクバク。気のせいか足元もおぼつかない。
「明日何時に起こしますか、家で予習する時間も必要ですよね?」
隆宣さんが翔一郎さんの顔をのぞきこむ。
「うーん、リハが十七時だから、昼前にはここ出たいかなあ」
「じゃあ、十時ぐらいに起こして、家に送りますから」
「うん、頼むね」
親子でもおかしくない年の隆宣さんに、甘えまくりの翔一郎さん。もし本当に翔一郎さんのことが好きなら、こんなふうに頼られるのは、うれしい反面つらいだろうな。
この様子だと、当然隆宣さんも同じ部屋に泊まるつもり、だよな? 俺なら無理だ、襲いかねないから逃げる。
部屋に入り、酒の匂いが満ちてる中、二人がかりできちんと翔一郎さんを寝かせる。隆宣さんは髪をかき上げながら、ちょっとの間、翔一郎さんの穏やかな横顔を見下ろした。
「さ、今度はハル迎えに行かないと」
やっぱり酔ってるのか、隆宣さんは酒の匂いを漂わせ、肩を揺らして楽しそうに笑う。
「隆宣さんて……」
「なに?」
部屋を出て、エレベーター前まで来たところで、隆宣さんは壁際に置かれていたソファにすとんと座った。
「実際のところ、翔一郎さんのこと、どう思ってるんですか? 本当に好きなんですか?」
酒の力もあったのか、直球勝負を挑んでしまった。苦手なんだよな、回りくどいのって。
「好きだよ」
隆宣さんは、今さらなにを、と言わんばかりに、さらっと真顔で言う。
「それって……」
「恋愛感情だけど?」
投げた球をいともあっさりと場外ホームランにされた気分だった。きっぱりしすぎてて、しばらく返す言葉もない。
「これだけはどうしようもないんだ。俺は、あの人が好きだ」
隆宣さんは、きれいという言葉が似あう顔を凛々しく引き締め、まっすぐ俺の顔を見つめる。
「静也君は? 今日これから、ハルとのことどうにかするんだろ?」
「えっ……」
「あんな熱烈なラブソング歌われちゃ、こっちもたまんないよ」
隆宣さんは上目遣いに俺を見て、にっと笑った。その笑顔は、どこかさみしげにも見える。
最初のコメントを投稿しよう!