その6

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 千鳥足の翔一郎さんを支えて歩く隆宣さんの後ろから、俺は翔一郎さんの荷物を抱えてついていった。抱えた荷物が、胸の鼓動で弾みそうだ。そのぐらい、心臓はバクバク。気のせいか足元もおぼつかない。 「明日何時に起こしますか、家で予習する時間も必要ですよね?」  隆宣さんが翔一郎さんの顔をのぞきこむ。 「うーん、リハが十七時だから、昼前にはここ出たいかなあ」 「じゃあ、十時ぐらいに起こして、家に送りますから」 「うん、頼むね」  親子でもおかしくない年の隆宣さんに、甘えまくりの翔一郎さん。もし本当に翔一郎さんのことが好きなら、こんなふうに頼られるのは、うれしい反面つらいだろうな。  この様子だと、当然隆宣さんも同じ部屋に泊まるつもり、だよな? 俺なら無理だ、襲いかねないから逃げる。  部屋に入り、酒の匂いが満ちてる中、二人がかりできちんと翔一郎さんを寝かせる。隆宣さんは髪をかき上げながら、ちょっとの間、翔一郎さんの穏やかな横顔を見下ろした。 「さ、今度はハル迎えに行かないと」  やっぱり酔ってるのか、隆宣さんは酒の匂いを漂わせ、肩を揺らして楽しそうに笑う。 「隆宣さんて……」 「なに?」  部屋を出て、エレベーター前まで来たところで、隆宣さんは壁際に置かれていたソファにすとんと座った。 「実際のところ、翔一郎さんのこと、どう思ってるんですか? 本当に好きなんですか?」  酒の力もあったのか、直球勝負を挑んでしまった。苦手なんだよな、回りくどいのって。 「好きだよ」  隆宣さんは、今さらなにを、と言わんばかりに、さらっと真顔で言う。 「それって……」 「恋愛感情だけど?」  投げた球をいともあっさりと場外ホームランにされた気分だった。きっぱりしすぎてて、しばらく返す言葉もない。 「これだけはどうしようもないんだ。俺は、あの人が好きだ」  隆宣さんは、きれいという言葉が似あう顔を凛々しく引き締め、まっすぐ俺の顔を見つめる。 「静也君は? 今日これから、ハルとのことどうにかするんだろ?」 「えっ……」 「あんな熱烈なラブソング歌われちゃ、こっちもたまんないよ」  隆宣さんは上目遣いに俺を見て、にっと笑った。その笑顔は、どこかさみしげにも見える。
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