その3

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 九州から帰ると、次の公演までは一週間ぐらい空く。その間俺は、あくまで晴輝のツアーにつくのがメインだから、会社にはツアー中の報告書作りや手伝い程度に出るくらいで、のんびりしていた。  晴輝の話を聞こうと無理やり飲みに連れ出されそうになったり、誰に聞いたのか、普段めったに電話をよこさないヤツまで、電話をかけてくる。そんな友達のミーハー根性にいちいちつきあうのが面倒で、今では電話やメールもほぼ無視。  もともとつきあいがいい方じゃない。守秘義務だってあるし、何度も同じ話を自慢げに話すなんてしたくない。それに会う人全員がそうだとは言わないけど、芸能レポーターみたいになるヤツもいて、嫌だった。  冷房をきかせた部屋に突然鳴り響く、スマホの着信音。また誰かからの誘いかも知れない、そう思いながら画面を見ると、見知らぬ番号。  無視しようと思ったけど、スマホはいつまでも鳴ってる。迷ったあげく、俺は電話に出てみた。 「あ、静也? 俺、晴輝だけど」  耳に飛びこんできたのは、間違いなく晴輝の声。  なんで晴輝が俺の番号を知ってるんだ? なんで急に電話なんかかけてくんだ?  軽い動揺と混乱を隠してなんの用か聞くと、 「翔一郎さんのライブ行かない?」 と弾んだ声で返された。 「は? 翔一郎さんの?」  そう言えば、翔一郎さんが時々小さなライブハウスでライブやってるっていう話を、聞いたような気もする。  俺はぼんやり晴輝の言うのを聞いていた。晴輝の声の背後がにぎやかだ。事務所にいるのか。ということは、大石さんにでも電話をかけてもらったのか。 「今日これから、渋谷のライブハウスであるんだよ。隆宣の車に乗せてもらって行くことになってるから、駅前にいてもらえば拾ってもらうからさ」 「え、今日? いきなり今からって言われても……」  まくしたてられて困惑気味に答えると、酒おごるから行こう、絶対来て損はないって、となんだかんだセールストークのように浴びせられた。  一方的に時間を決められて電話を切られて、晴輝の強引さに思わず苦笑。仕方なく出かける準備をし、電車に乗って渋谷へ。時間に少し遅れて言われた場所に行くと、そこにはワゴン車が止まっていた。 「やあ、いきなり呼び出されて迷惑じゃなかったかい?」  スモークが貼られてる助手席の窓が開いて、翔一郎さんのいつものゆったりとした笑顔が現れる。 「いえ、そんなことないです」
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