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私の頭の中で疑問が湧く。
でも、それなら何故二人は結婚したのか。
合点が行かなかった。
そんな私の脳裏を見透かしたかのように、彼が呟いた。
それはまるで、自分に言い聞かせるかのように静かだった。
「あいつは、好きな人がいたんだ。俺以外に」
彼の瞳に一瞬、哀しそうな影が落ちた。
実際どうかは判断出来かねないくらいの刹那。
「じゃあ、なんで……」
私がそれ以上の言葉に詰まると、彼が私を見てふっと憫笑した。それは、自分に向けた笑い。
その瞳には、今度こそはっきりと、哀しみが影を落としていた。
「お前は、」
ーーピンポーン
彼が口を開いた瞬間、彼の言葉を遮るようにしてインターホンが押された。
気になったけれど、それよりもこちらの方が大事だった。
私が頑として動こうとしていないのが伝わったのか、彼がさっきまでの緊迫した空気が嘘かのように、軽く言い放った。
「いってこいよ」
そういった彼の瞳にはさっきまでの暗い影はもう無くて、代わりに『はやく』と目が急かしていた。
「う、うん」
慌てて玄関へと走る。
「はーい。って、あれ?」
ドアを開けると、ただ中に寒い風が吹き込んでくるだけで、インターホンの前には誰もいなかった。
「おかしいなぁ。確かに鳴ったよね……」
一人で呟くように言いながら、ドアを閉めようとすると、ふわりっと風に乗って一枚の紙切れが玄関へと忍び込んできた。
「ん、何これ」
しゃがんで拾い上げると、それは一通の葉書だった。
差出人に、思い当たらず、葉書の表を見る。
そこには、私の住所と名前だけが書かれていた。
「差出人がわかんないのなんて、初めてだな……」
不思議に思いながら、葉書を裏返すと、そこには血ーーいや、カラーペンだろうか。
少し黒ずんだ褐色に近い色で、『晃介を返せ』と書き殴られていた。
「きゃぁぁぁぁあ」
(やだ、やだ、何これ。気持ち悪い)
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