一対

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一対

 「オスメス一株ずつと思って買ったけれど、どうもミスったらしくて」  五年ぶりに実家に帰ってみたら、裏庭にキウイの棚ができていた。  わたしが家を出た年に植えたキウイは、もはや立派な成木である。  小さい用水路が流れ、その向こう側には昔からある田んぼが広がっていた。今は晩秋だから、とっくの昔に稲の刈り取りが終わっている。閑散とした田舎の景色を背景に、一対のキウイはもさもさと葉を風に揺らしていた。  昨日降った雨のせいで、キウイの棚は冷たく濡れていた。  北向きの縁側から庭を見るわたしの横に、母が立つ。熱そうな番茶が入ったマグカップを二つ持っていて、そのうちの一つをこちらに寄越した。    「冷えるでしょう、この部屋。もう滅多に使わないから、荷物置き場になってる。ストーブも置いていないよ」  昔はこの部屋は、親戚が泊まるために空けられていた。  夏や正月など、県外から客が来て、二泊ほどしていくのが習わしだった。  父が亡くなってから縁故が切れて、そういう来客も減ったという。だから今では、干し柿や餅を保管したり、誰も読まない名作文庫を束ねて縛ってとりあえず置いておくための場所になっている。     
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