一対

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 言い合っているうちに、母は笑いをかみ殺すような顔をしはじめ、わたしも可笑しくなって声が裏返った。    なんだよ、なにが本当だか分からない。  オスメス対で買ったはずが実をつけず、近所の物知りさんからはメス同士だと断定された、そのキウイに、小さい実がついていた。  「一つだけじゃん」  「いや、ほら、よく見たらこっちにも、ほら」  見ると、ごくごく小さい、実になりかけた脆弱なものが、あちこちにひっそりできていた。      「今年、いきなり実をつけだしたのかなー」  「多分」    そんなことってあるのかなあ、と、わたしが言うと、あるのよ、と、母は笑いながら言った。  「だからね、今だけ見て、良し悪しを決めるもんじゃないのよー」 **  これはキウイのことだ。わたし自身の人生のことではない。  相変わらずわたしは気だるい体をしているし、未だに夫から連絡は来ない。もちろん職場が改善されているはずもない。  なにも変わらないままだ。だけど、現実に戻る日は刻々と近づいている。こうしている間にも。    風はますます冷たく吹き付けてきて、空は日ごとに重苦しく垂れこめて来た。  冬が近い。  季節がまた、移ろうとしている。  「今年の冬は、キウイが食べられるよ」     
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