一対

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 それほど埃っぽくないのは、母が毎日のように掃除機をかけているからに違いない。実際、帰ってきてから三日たつが、毎朝、広い家じゅうくまなく、掃除機をかけているのだ、母は。  縁に立っていると、時々冷たい風が吹きつけた。  キウイの葉も寒そうに揺れた。  そうだこの風だ、と、懐かしく思いながら番茶をすする。  風は冬のにおいがする。遠くない未来に雪がやってくる、そんなにおいだ。  なに、キウイってオスメスあるのと聞くと、母は頷いた。キウイはオスメス揃わないと実を結ばないという。  「だいたい、三、四年たったら実をつけると聞いていたから楽しみにしていたんだけど」    「メス同士じゃないのかって、左近さんが言った」  家庭菜園に詳しい、近所の人の名前を出して、母は番茶を啜った。  その横顔が苦々しそうだったので、ははあん、相当馬鹿にされたなと憶測する。  左近さん。確か、噂大好きで意地悪いおばちゃんだ。わたしが受験生だった時、どこの学校を受けるのかと詮索したり、合格発表の後には合否を確かめに来たものだ。それをまた、光の速さで町中に言いふらすのも厭らしかった。  どうして母が左近さんと親しくしているのか訳が分からなかったけれど、どんな厄介な関りでもなかなか切ることができないのは、母の性格である。     
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