一対

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 (きっと左近さん、町の園芸仲間にうちのこと、さんざん馬鹿にして言いふらしているに違いない)  わたしは番茶を啜った。  思い浮かぶようだ――キウイのオスメスを見分けられずに、棚だけは立派なのを作ってねえ、初心者にありがちな滑稽なミスだわね――ちらっと見ると、母の顔に浮かんだ苦々しい表情は既に消えていて、今は淡々と茶を啜っていた。    茶を飲みながら母は動いた。  あんたここは寒いから、早く中に入りなさいよ。ガラス戸も閉めといてね、葉っぱが入り込んでしまうからね。  ひたひたと家の中に戻り、台所の玉暖簾をくぐる音がする。これから夕食を作るのだろう。    ひううと、風が当たった。わたしもそろそろ中に入ることにする。  黒々と濡れたメス同士のキウイ。対になっていても、いつまでも実を結ばない不毛なやつら。  (引っこ抜いて、捨てちゃえばいいのに)    ガラス戸を閉めて、薄暗い部屋を振り向いた。  物置状態になっている部屋には、学生時代のテキストやら、子供時代のぬいぐるみやらが、雑然と並んでいる。  不毛な。  あまりにも、不毛な。  母は、あんたいつまでこっちにいるのとか、これからどうするのとかは、一切、言わない。  口やかましい母だったはずが、煩いことを言わなくなったのはたぶん、父が亡くなってから。     
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