一対

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 一月の休養を取れるほど恵まれた仕事場ではない。無理に休暇を取ったとして、また戻った時、どんな酷い仕打ちを受けるかわからない。  主人は入院中、一度も見舞いに来なかった。  相談したいことがある、と、メールを送ったが、返答がないまま退院の日を迎えた。  入院中、辞めたいけれど夫は許さないだろうし、ああどうしよう面倒だなと頭をさんざん悩ませていたが、いざ退院となった時、なにかがぷつんと切れた。  病院に一度も顔を出さなかった夫は、退院の時ですら迎えに来なかった。  わたしも最初から期待していなかったので、着替えの類は入院が決まった時点でいったん家に戻り、自分でまとめて持参していた。  四人部屋だった。  同室の女達は、家族の見舞いがある度、煩わしそうな顔をしていた。  「ママー、ディズニーランドに行く約束、どうなったのー」  子供に泣きつかれては、「ママ病気で入院してるのに、なんてこと言うのよ」とキレたりしている彼女たちを見ているうちに、わたしの中の何かがゆっくりと壊れていった。  ナースステーションの看護師たちに頭をさげ、重たい紙袋をさげて病院を出た時、ひううと斬りつけるような風が顔に当たった。  強い風だった。  病院の表玄関では、タクシー乗り場がにぎわっている。     
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