一対

8/14
前へ
/14ページ
次へ
 タクシー以外に、自家用車がすうっと近寄ってきて、際で停まることもある。電話で家族を呼んで迎えに来てもらったのだろう、人々は笑顔で車に乗り込んで行く。    わたしはタクシーで、誰もいない自宅に戻り、その場で会社に電話をして、休養したいことを伝えた。  夫には、心身ともに疲れたから、ちょっと田舎に戻ってくる、とメールを打った。    そのまま、わたしは、着の身着のまま、実家に戻った。  車で二時間ほどの、田舎に。  夫からメールの返信も、電話も、一切、ない。 **  仏壇の上に遺影が飾られ、毎日新しいごはんが供えられる。  前日の古くなった冷たいごはんは、母が自分で食べている。  広々としたテーブルに隣り合って食事をする時、母が温かいごはんの上に、仏さんから下げた古いものをあけて、もそもそ食べているのを横目で眺めた。    いつも一人で何してるのと聞くと、なにって、色々あるのよ、と母は答えた。  年金暮らしだから、贅沢はできない。といっても、もともと質素を好む母である。旅行や、外食などをするわけもない。  ここ数日の滞在で母を見ていると、どうやら日がな一日、庭で草をむしったり、家庭菜園の手入れをしたりしているようだった。  「大根、うまくできれば送るよ」  と、母は言う。     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加