一対

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 父に劣らず、畑仕事には不慣れな母だった。どうしてそんな不慣れなことをするんだと喉まで出かかっていたけれど、父が残した畑を護っているのかと思うと、言葉が出なかった。  例の不毛なキウイをも、母は手入れをしている。  棚の周囲の雑草をきちんとむしる。  腰が痛い足が痛いと言いながら、絶対に怠らない。  (この頑固さを、わたしも引き継いだんだろうか)  ここに来てからすることと言えば、昼寝と、会社へ提出する辞表を書いては破ることくらいだった。  母の手伝いで台所に立つことはあっても、僅かな時間である。  何日いても、母が「どうするの」と尋ねることはなかった。ごく当たり前のように食事を二人分作り、風呂を沸かし、洗濯物を干した。  わたしもまた、それに甘えてだらだらと時間を過ごしていた。  裏庭のキウイは葉だけは豊かにわさわさ揺れている。    「キウイの花って、綺麗だよ」  母は携帯で撮った写真を見せてくれる。  キウイが花を咲かしている時の写真だ。白っぽい花に、やたら真ん中がデカイ、あんまり可愛いとは思えない花がわさわさ映っていた。    いくら綺麗な花でも、実を付けないんじゃねえと言ったら、母はにやっとした。  「そうかねえ、わからんよ。なんでも今ばかり見て良い悪いを決めるもんじゃない」    それよりあんた、体は大丈夫なの。  母は気がかりそうに言った。     
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