89人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
奇妙な時代劇の夢は、七度目を最後に、何故かピタリと見なくなった。
やがて半月ほどの時が過ぎ、残暑厳しい夏も終わりを告げるころ、ある深夜のことだった。
今夜もお気に入りの音楽が、薄暗い部屋をゆったりと包んでいる。インターネット配信で音楽を楽しむ時代だというのに、骨董品並みになってしまったMDコンポから流れている。
ヒーリング系のBGMは、まるでシルクのベールのように滑らかに空間を包んでいた。幻想的なメロトロンのコーラス・エコーに、哀愁漂う柔らかな歌声が重なり合って、男の疲れた心を癒してくれている。
伝説的な英国プログレッシヴ・バンドの一つ、10CCが奏でるクラシカルな名曲、♪I’m Not In Love♪♪。
男が深夜にパソコンへ向かうとき、いつも決まって掛ける古いUKプログロックの中でも、珠玉の一曲だ。
「やっと見つけたぞ! いつもの天女だ。どうも何処かで会ったような? ・・・・・・透き通るような白い肌、口元の小さなホクロ。うんん・・・・・・、どこか懐かしい・・・・・・」
高鳴る胸の鼓動を抑えながら、男は独り呟いた。そして、神がかりのような奇妙な感覚を覚えると、深く息を呑み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!