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男はこの半月もの間に、新たな夢を何度も繰り返し見ていた。
夢の女は、純白のロングドレスを身に纏い。暗紫色の透明なガラステーブルを挟み、その奥の艶やかな、紅色のソファーに身を委ね、男に向かってにっこりと微笑んでくる。
そのとき男は、女に何か懐かしい想いを告げるのだが、その内容につては自分でもよく分からない。
やがて美しい女は空高く昇天し、白い天女となって、ひらりひらりと舞い踊る。その情景ときたら、まるで天の羽衣伝説そのものであった。
夢が終わりを告げると、冷え冷えの涙に男は目を覚ます。目覚めのとき、千年越しの恋でも叶ったような感動が沸々と湧き立ち、胸を締め付けた。男の魂が泣いていたのだ。
男は、夢遊病者の如く、夢に現れた白い天女の幻影を求めて、新宿や六本木の盛り場や風俗街を、トボトボと彷徨い始めた。しかし、当てもない探索では、良い成果は得られる筈もない。
やがて身も心もボロボロになり、部屋に引きこもりがちになった頃である。残暑厳しい夏も終わりを告げるある日の深夜、インターネットで夢の天女を見つけ出すことになったのだ。
夢が現実と繋がるとは、気まぐれな神様のいたずらなのか。それとも時空を越えた運命の波動の揺らぎなのか。
このとき男は、ハタハタと感じ始めていた。
(( これは永遠の魂たちが、現世で出逢うために仕組まれたものではないか。『黄泉の国』に棲むと言われる『輪廻の神様』の仕業なのかも知れない。
自分は江戸時代の人間の生まれ変わりで、幽かだが前世の記憶があるのかも知れない。 ))
こんな夢想や幻想のような想いが、おずおずと芽生えてきたのである。
「臓器移植を受けた酒を飲めない人が、酒好きだったドナーの性質を引き継ぎ、飲めないはずの酒を飲みだした」などという、細胞記憶なる説があるようだ。
ならばこれは、『魂の記憶』なのか・・・・・・。
『魂の記憶』が、不思議な時代劇の夢を見させたのではないだろうか。
そして今度の白い天女の夢にも、必ずや繋がりがあるに違いない。
そんな男の思索は、日増しに強くなっていった。やがて妄想を遥かに超え、願望となって男の海馬の奥に棲み憑いた。
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