<第一章> 夢の出会い(1)男の夢

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   男はこの半月もの間に、新たな夢を何度も繰り返し見ていた。  夢の女は、純白のロングドレスを身に纏い。暗紫色の透明なガラステーブルを挟み、その奥の(あで)やかな、紅色のソファーに身を委ね、男に向かってにっこりと微笑んでくる。  そのとき男は、女に何か懐かしい想いを告げるのだが、その内容につては自分でもよく分からない。  やがて美しい女は空高く昇天し、白い天女となって、ひらりひらりと舞い踊る。その情景ときたら、まるでそのものであった。  夢が終わりを告げると、冷え冷えの涙に男は目を覚ます。目覚めのとき、千年越しの恋でも叶ったような感動が沸々と湧き立ち、胸を締め付けた。男の魂が泣いていたのだ。  男は、夢遊病者の如く、夢に現れた白い天女の幻影を求めて、新宿や六本木の盛り場や風俗街を、トボトボと彷徨い始めた。しかし、当てもない探索では、良い成果は得られる筈もない。  やがて身も心もボロボロになり、部屋に引きこもりがちになった頃である。残暑厳しい夏も終わりを告げるある日の深夜、インターネットで夢の天女を見つけ出すことになったのだ。  夢が現実と繋がるとは、気まぐれな神様のいたずらなのか。それとも時空を越えた運命の波動の揺らぎなのか。  このとき男は、ハタハタと感じ始めていた。 (( これは永遠の魂たちが、現世で出逢うために仕組まれたものではないか。『黄泉の国(よみのくに)』に棲むと言われる『輪廻の神様』の仕業なのかも知れない。  自分は江戸時代の人間の生まれ変わりで、(かす)かだが前世の記憶があるのかも知れない。 ))  こんな夢想や幻想のような想いが、おずおずと芽生えてきたのである。 「臓器移植を受けた酒を飲めない人が、酒好きだったドナーの性質を引き継ぎ、飲めないはずの酒を飲みだした」などという、細胞記憶なる説があるようだ。  ならばこれは、『』なのか・・・・・・。 『魂の記憶』が、不思議な時代劇の夢を見させたのではないだろうか。  そして今度の白い天女の夢にも、必ずや繋がりがあるに違いない。  そんな男の思索は、日増しに強くなっていった。やがて妄想を遥かに超え、願望となって男の海馬の奥に棲み憑いた。        * * * * * * *    
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