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<第一章> 夢の出会い(3)契約の恋人
男は諦めるはずもなかった――――
『諦め』などという文字は、男の心の辞書にはもはや存在しない。
白い天女とは運命の出逢いなのだ。男は夢の出逢いを信じた。毎週のように、恋しいトワのいるクラブ・エテルナに通い詰めたのだった。
男は、会う度にトワを口説いた。
しかし彼女からの返事は、決まっていつも『今は無理!』の一言だった。
トワには、追いつづけている大きな夢があった。その実現のために、すべてを犠牲にして、辛い仕事にも耐えていた。『愛だの、恋だの』そんな男と女の話など、すべてを絶つ決意をして、その思いは岩塊の如く堅かった。
昼間は、自ら経営するエステサロンのエステティシャンとして、夜はクラブ・エテルナにと。トワは休む間もなく必死で働いた。
そんな堅い決意で閉ざされたトワの心には、男一人の想いなど、入り込む隙間は、微塵もなかった。
店に通い始めて三週目のこと――――
この日のトワは、アフターの誘いに初めて応じてくれた。クラブを離れた二人は、彼女の馴染みの店だという近くのパブに立ち寄った。
路地裏の奥まった隠れ家で、周囲は大都会の真ん中にしては、何とも似つかわしくない場所だった。霞がかった沼地のように、ぼんやりと浮かぶ不思議な空間は、妖気を感じる程である。
店に入ると、そこは慎ましやかな佇まいの古びたカウンターバーの小店だった。
長いカウンターテーブルの一番奥の席に、二人は隣り合わせに肩を寄せ合った。
ログハウスを思わせるウッディな店内は、山小屋のカンデラ風の暗めの照明に、ジャズのオールドナンバーが、優しく包んでいた。
懐かしい ♪Take Five♪♪の変拍子のリズムが、大人の空間を醸し出している。そのシックで穏やかな雰囲気は、男と女の艶話をするには最適だった。
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