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トワは、暫らく沈黙していたが、やがてその重い口を少しずつ開いた。
「わたしの母は身体障害者だったの・・・・・・。わたしは児童施設で育ったわ。幼い頃から家庭には恵まれなかったの。たとえどんな母でも、一緒に暮らしたかったのに! でも、それは許されなかったわ・・・・・・」
トワは、心の奥底に仕舞い込んでいた辛い想いを吐き出した。
「そっ、そんなぁ?・・・・・・」
男は言葉が詰まった。
「ヤングケアラーとかの問題もあって、自宅生活は無理だって・・・・・・。それに、障害者施設では、一緒に暮らせないって・・・・・・。そこで子供のわたしは、別の養護施設に預けられたの。とっても寂しかった・・・・・・」
トワは口篭もり一息入れた。そのとき瞳は赤味を帯びていた。
男は、掛ける言葉も見つからず、ただ黙って頷くだけだった。
トワは気を取り直すと、また話をつづけた。
「わたしの夢はね。障害者とその子供たちが一緒に暮らせる、家庭的な施設を造りたいの。母がお世話になった施設を再建したりして・・・・・・。そのためには莫大な資金が必要! だから身を粉にしてでも、必死に働かなくては・・・・・・。今の仕事もその一つ」
話し終えたトワは、堪えていた涙を止めることができなくなった。そして、バッグから薔薇の模様のハンカチを取り出して、目頭を押さえた。
男は、辛抱に辛抱を重ねているトワを、益々愛おしく思った。言葉を掛けるよりも先に、優しく肩を抱き寄せた。そして、トワが手にしていた薔薇のハンカチを取り、そっと涙を拭いてやった。
「うーん、うん、うん。・・・・・・そう、そうなのか。夢のために、頑張ってるんだね! よーく分かったよ。トワさん」
男は、何度何度も頷いたあと口を開いた。
「ありがとう! 分かってもらえて・・・・・・」
熱い涙のせいかも知れない、トワの声はトーンも低く、嗄れていた。
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