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<< 契約の恋人誕生 >>
トワが語る身の上話を聞くうちに、男の脳裏には、ある一つのアイディアが浮かんでいた。やがてその思考は、F1サーキットのように目まぐるしく、男の頭の中を駆け巡った。
「じゃー、君の夢のために、こんな俺だが、少しでも、役に立てたらいいなぁ・・・・・・」
「ありがとう!」
「そうだ! 俺に、トワの時間を売ってくれ!」
男は、熱い想いを吐き出した。
「えっ? わたしの時間を?・・・・・・」
余りにも突飛な申し出に、トワは小首を傾げた。
トワの事情を聞くうちに、次の思いが、男の頭の中に大きく広がった。
((トワが仕事をこのまま続けることは、心にも体にも厳しすぎる。トワは働き詰めで、休みもろくに無い。この世で一番大事な人が、病気にでもなったら何よりも辛く悲しいことだ。美人薄命などともよく言われる。トワにはいつまでも綺麗で、いつまでも元気でいて欲しい。そのためにも、仕事を忘れてゆっくりできる時間を、時々作ってやりたい。そして、トワの魂の記憶が甦った暁には、人生の伴侶となって現世の最期を一緒に迎えたい。))
「ホントに、トワは忙し過ぎだ。このままでは、なかなか君に会えない。店に通っても、会える時間は僅かだし、通い続けるにも、懐の余裕もない。せめて、せめて週に一度。二人だけの時間が欲しい」
男の熱い思いは、熱弁へと昇華した。
「ううん。そうねぇ?」
トワは小さく頷いた。
「・・・・・・そうだ、週の一日だけ!『俺の専属』になってくれ!」
「えっ、専属ですって?」
トワの大きな瞳は、零れそうなほどに、瞬きを繰りかえした。
「そうそう、君のお勤めの一日分を、売って欲しい! ただ、誤解しないで・・・・・・。君を買うと言っても、春を買うんじゃない。トワの大切な時間を、少し分けて欲しいのさ」
唐突で思いも寄らない男の提案に、トワは、暫くの間、俯いたまま口を閉ざしてしまった。
男も黙って寄り添うと、神妙な面持ちで、彼女の返事を静かに待った。
「そうねぇ、専属契約ってことよね? ・・・・・・ううん、できるかしら? ただし、わたしの収入が、減らないことが、条件だわ」
トワも神妙な面持ちで、男の目を見つめながら、ゆっくりと答えた。
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