<第一章> 夢の出会い(4)火曜日の恋人たち

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  「絵のタッチがいい。尊敬する画家の絵に似てるんだ。・・・・・・それと、こっちの缶は、彼の自画像に似てるから」  男は、薄茶色の缶を自身の眼前にかざしながら答えた。 「さすがは絵描きさんね・・・・・・。その画家って?」 「トワも、知ってるかな? ポール・セザンヌ」 「あっ、知ってるう! 名前だけなら、聞いたことあるわ。・・・・・・どんな人?」  トワは、掌を胸元で合せながら嬉しそうに答えた。 「十九世紀のフランスの画家なんだ。『近代絵画の父』って、呼ばれてる」 「まあ、素敵! 絵画の父』 「そうなんだ! 凄い人だ」 「それって・・・・・・音楽の父、バッハみたいね?」 「おっ、上手い喩えだね! トワさん」 「うふふっ!」  トワは満足そうに微笑んだ。 「セザンヌは、印象派の一人だが、それまでの印象派とは違い・・・・・・」 「どんな違い?」 「もう、心で感じたままを、抽象的に描く、革新的な描写の、先駆者なんだ!」 「何だか難しそうだけど、凄い人なのねぇ?」 「そう、凄い人。難しい理屈付けなど、要らない・・・・・・」 「りくつぅ?」 「風景でも人物でも、感じとったものを・・・・・・。心で、描くんだ!」 「ええっ、心でぇ? ステキー!」 「そうさ! セザンヌの絵は、素敵さ!」 「ところで抽象画って言ったら、ピカソよね?」  トワは、男の肩に軽く手を添えた。 「うん、そのピカソだって影響を受けた。伝説の画家なんだ」 「伝説の?」  トワは、頬に手を当てながら首を傾げた。    
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