89人が本棚に入れています
本棚に追加
「絵のタッチがいい。尊敬する画家の絵に似てるんだ。・・・・・・それと、こっちの缶は、彼の自画像に似てるから」
男は、薄茶色の缶を自身の眼前にかざしながら答えた。
「さすがは絵描きさんね・・・・・・。その画家って?」
「トワも、知ってるかな? ポール・セザンヌ」
「あっ、知ってるう! 名前だけなら、聞いたことあるわ。・・・・・・どんな人?」
トワは、掌を胸元で合せながら嬉しそうに答えた。
「十九世紀のフランスの画家なんだ。『近代絵画の父』って、呼ばれてる」
「まあ、素敵! 絵画の父』
「そうなんだ! 凄い人だ」
「それって・・・・・・音楽の父、バッハみたいね?」
「おっ、上手い喩えだね! トワさん」
「うふふっ!」
トワは満足そうに微笑んだ。
「セザンヌは、印象派の一人だが、それまでの印象派とは違い・・・・・・」
「どんな違い?」
「もう、心で感じたままを、抽象的に描く、革新的な描写の、先駆者なんだ!」
「何だか難しそうだけど、凄い人なのねぇ?」
「そう、凄い人。難しい理屈付けなど、要らない・・・・・・」
「りくつぅ?」
「風景でも人物でも、感じとったものを・・・・・・。心で、描くんだ!」
「ええっ、心でぇ? ステキー!」
「そうさ! セザンヌの絵は、素敵さ!」
「ところで抽象画って言ったら、ピカソよね?」
トワは、男の肩に軽く手を添えた。
「うん、そのピカソだって影響を受けた。伝説の画家なんだ」
「伝説の?」
トワは、頬に手を当てながら首を傾げた。
最初のコメントを投稿しよう!