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最近のTVで、時代劇を観ることが多くなった。
そのせいで、あんな古びた夢を見てしまうのだろうか。
しかし、夢の内容ときたら、TVで見たどんな場面とも違い別物である。
元々時代劇など好きではないのに、近頃よく観るようになったのも、不思議なことなのだ。
男の妄想は、心のシワを徐々に延ばすように、おおきく大きく広がった。
それはまるで、折り畳まれた紙風船が、ジワジワと膨らむように。
やがて男の妄想は、一つの着想に帰結する。しかもそれはかなり確信的に。
「もしかして、この夢は、『前世の記憶』なのではないか?・・・・・・」
前世の懐かしさから、魂のレベルで無意識のうちに時代劇を観てしまうのかも知れない。あまりにも荒唐無稽な発想であるが、そう考えると説明がつくのである。それはかなり確証的に。
奇妙な夢が始まったのは、一月ほど前からだった。最後に見た夢で、七度目を数えた。
そして夢の中身ときたら、毎度毎度まったく同じ展開であり、濃灰色のモノクロームな、古びた時代劇の映画でも見るようであった。
* * * * * * *
☆☆☆ 男が見た奇妙な夢 ☆☆☆
「こっ、今度生まれ変わっても・・・・・・。か、必ず・・・・・・」
吐血で喉を詰まらせながら、素浪人が言葉を吐いた。
「・・・・・・こっ、今度こそ」
素浪人は、隣に横たわる遊女の黒い手を取り、最後の息を声にした。
「きっ、きっと・・・・・・」
遊女も、掠れた声で一言残すと、息絶えた。
不遇の時代の風雨に晒された、不憫な二つの魂の誓約は、息を引き取る間際に交わされた。
春とは言え、早朝の河原の風はまだまだ肌寒く、哀れな男と女の亡骸を、冷たくさらっていた。
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