<第一章> 夢の出会い(1)男の夢

3/11

89人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
   最近のTVで、時代劇を観ることが多くなった。  そのせいで、あんな古びた夢を見てしまうのだろうか。  しかし、夢の内容ときたら、TVで見たどんな場面とも違い別物である。  元々時代劇など好きではないのに、近頃よく観るようになったのも、不思議なことなのだ。  男の妄想は、心のシワを徐々に延ばすように、おおきく大きく広がった。  それはまるで、折り畳まれた紙風船が、ジワジワと膨らむように。  やがて男の妄想は、一つの着想に帰結する。しかもそれはかなり確信的に。 「もしかして、この夢は、『前世の記憶』なのではないか?・・・・・・」  前世の懐かしさから、魂のレベルで無意識のうちに時代劇を観てしまうのかも知れない。あまりにも荒唐無稽な発想であるが、そう考えると説明がつくのである。それはかなり確証的に。  奇妙な夢が始まったのは、一月ほど前からだった。最後に見た夢で、七度目を数えた。  そして夢の中身ときたら、毎度毎度まったく同じ展開であり、濃灰色(のうかいしょく)のモノクロームな、古びた時代劇の映画でも見るようであった。        * * * * * * *   ☆☆☆ 男が見た奇妙な夢 ☆☆☆ 「こっ、今度生まれ変わっても・・・・・・。か、必ず・・・・・・」  吐血で喉を詰まらせながら、素浪人が言葉を吐いた。 「・・・・・・こっ、今度こそ」  素浪人は、隣に横たわる遊女の黒い手(・・・)を取り、最後の息を声にした。 「きっ、きっと・・・・・・」  遊女も、掠れた声で一言残すと、息絶えた。    不遇の時代の風雨に晒された、不憫(ふびん)な二つの魂の誓約は、息を引き取る間際に交わされた。  春とは言え、早朝の河原の風はまだまだ肌寒く、哀れな男と女の亡骸を、冷たくさらっていた。    
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加