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時は、江戸時代も終わりを告げる頃。素浪人は、大江戸吉原で出逢ったばかりの遊女と禁断の恋に落ちた。
遊女は、錦絵にでも描いたような、それはそれは妖艶なる美しさ。
名も無き素浪人は、取りつぶされた元旗本の御曹司。寺子屋の手伝いをしながら細々と暮らしていた。やっとの思いで貯めた小判をふところに、初めてやって来た吉原だったが、素浪人の望みは叶わなかった。
素浪人は、夜毎の夢のお告げに現れる花魁姿の美しい女を探していた。人探しなど、たやすいものではないことは分かっていたが。諦め切れぬ素浪人は、吉原の遊郭を彷徨い始めた。来る日も来る日も夢の女を探し続けた。
そんな日々が、半月ほど続いたある日。梅の蕾が膨らみ始めたばかりの、寒さも残る春の芽吹きの頃、ようやく遊女を見つけ出す。
愛の魂の執念とでも呼ぶのか、それは宿命の出逢いだった。運命の赤い糸でも繋がっているのか、二人は直ぐに恋に落ち相思相愛の仲となる。
貧乏な素浪人は、遊女のところに通いたくとも、そんな懐の余裕などない。しかし、素浪人の募る想いは、日増しに大きく膨れ上がった。
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