<第一章> 夢の出会い(1)男の夢

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<第一章> 夢の出会い(1)男の夢

   ひぐらしの鳴き声も遠く、雑木林外れの河川敷。男は、呆然と立ち(すく)んでいた。  頬をしたたる大粒の涙を、男は手の甲で乱暴にぬぐい去ると、濡れてしまった日記帳を静かに閉じた。  人影もない河原は、厳しい残暑の熱気も冷めたのか。涼しさを感じる程に、穏やかな川風が男の湿った頬を、やさしく愛撫する。  それは愛する(ひと)の甘い薫りが漂う、が奏でる恋の名残(なごり)だった。  幻想的で柔らかな♪♪月の光♪♪は、男の後ろ姿を静寂の川面(かわも)に切なく浮かべる。  辺りの景色は、黄昏のトワイライトから、夜空のスターライトへ、その主役の座を譲ろうとしていた。     image=512152576.jpg   
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