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近所に住むおばさんが、その噂の詳しい内容を彼女に教えてくれた。ある雨の晩、残業で遅くなった二階の住人がこの部屋の前を通りかかると、中から物凄い悲鳴と何かが落ちたような鈍い音が聞こえたのだという。男は遺書も残しておらず、自殺かどうかも判らずじまいだった。それに直接関係のないことだが隣の町では廃材置き場から女性のバラバラ死体が見つかっている。あなた、よく怖くないわねえ、何か出たりしなかった? とおばさんは好奇心丸出しの顔で彼女に訊ねてきた。
だが、彼女にとっては噂なんてどうでもよかった。とにかく、今はこの押入れが気になって仕方がない。扉を開けてみると奥のほうに透明なビニール袋が置いてあるのが見えた。中には靴やバッグが入っているようだ。いったい誰のだろう? 中に入って見ると意外にひんやりとして気持ちがいい。手を伸ばし、ビニール袋を手に取った瞬間、後ろでバタン、と扉の閉まる音がした。
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