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俺は断ったが、今にも泣きそうな顔になったので、軽く礼を言って箱を受け取った。それが間違いだった。
部屋に入り、ケーキの箱を開けてみると、手作りなのだろうか、ぶかっこうなカステラに生クリームをぶちまけて真っ赤な苺を溢れんばかりに乗せたショートケーキが入っていた。でもその臭いは糞尿のようで当然、食べる気はしなくて、そのまま捨ててしまった。
女は次の日もアパートの前でケーキの箱を持って待っていた。さすがにその時にはこの女、かなりやばいんじゃないかと思った。
「あの、もうお礼はいただきましたから、これ以上は受け取れないです。せっかく持ってきていただいたのにすみません」
出来るだけ穏やかにそう言うと、女を置き去りにしてアパートに逃げ込んだ。
部屋に入ってしばらくすると、どすん、とドアを蹴ったような音がした。
「食べてください。美味しいから食べてください」
そしてドアを揺らすガタガタという音。
いったい何だっていうんだ!
「食べてください、食べてください」
女は小さな声でずっと呟き続けている。
俺は耳を塞ぎ、ひたすら時間が経つのを待った。
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