押入れの中

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 三十分もたった頃、音は聞こえなくなった。恐る恐るドアの前に行ってみると、新聞受けからぐちゃりと潰れたケーキの箱がはみ出していた。無理やり押し込んだせいでクリームが箱の隙間からはみ出している。  その後、女は連日のようにケーキを持ってきた。新聞受けに押し込まれるのも嫌なので、仕方がなく受け取ってはそのまま捨てていた。 「あの、食べていただけましたか?」  気味の悪い笑みを浮かべて女が聞いてくるたびに、俺は曖昧な返事と愛想笑いで答えた。  いつかはあの女も飽きて止めるだろう。そう思ってひたすら我慢し続けた。  ある日、買い物をしていつもより遅い時間に家に帰ってみると女はいなかった。が、ドアの前に見覚えのあるゴミ袋が置かれていた。嫌な予感がした。袋は開いたままで、異臭がし、蝿が飛び交っている。覗いてみると、そこには俺が捨てた女のケーキ。しまった。捨てたことがばれた。急いで辺りを見回したが女はいない。少しほっとして部屋に入った途端、足が震えた。部屋の中はありとあらゆる物が散乱し、テーブルやテレビが横倒しになっている。壁に貼られているのは一枚の紙。そこには真っ赤な字でこう書かれていた。『嘘つき』と。  その震えるような字を見ているうちに全身ががたがたと震えだした。  あの女、俺の部屋に入ったのか!  慌てて部屋のクロゼットの引き出しを開けた瞬間、悲鳴をあげそうになった。     
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