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俺は翌日、ペット・ショップへ行き、モルモットを一匹買ってくると押入れの中に入れてみた。数分後、ゆっくりと扉を開けてみると中にはモルモットのぬいぐるみが入っていた。もう間違いない。この空間は生物を模型に変えてしまうのだ。これは、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。だが、今はこのままにしておこう。とりあえずクロゼットを動かして扉を隠す。やっぱりこんな異空間が目の前に見えているのは何となく不安だった。
やがてバイト先が見つかり、多忙な日々が続くうちに、奇妙な押入れのことは心の片隅に追いやられてしまった。
その日は一日中、耐えられないほどの暑さだった。バイトから戻ってくるとアパートの入口にあの女が立っていた。ケーキの箱を持って。
女は俺の顔を見ると満面に笑みをたたえてこう言った。
「やっと見つけた。今度こそ食べてくださいね」
ぞっとした。いったいどうやって俺の居場所を探り当てたのか。またこいつに付きまとわれなければならないのだろうか。
だとしたら……もう方法は一つしかない。俺は女に声を掛けた。
「あの時はごめん。今日は食べさせてもらうよ。それから、よかったら上がっていかない?」
女は俺が拒絶する態度を取らなかったことに少々驚いているようだったが、俺の後からいそいそと階段を上って来た。
部屋に入ると女は床に座り、嬉しそうに辺りを見回していた。
「いい部屋ねえ。あたしもここに引っ越してこようかな」
そう言いながら見せる笑顔は発情した豚そっくりで吐き気がした。
「あたし、まだ名前を言っていなかったわね。サオリっていうのよ。亮哉くん」
お前の名前なんて知りたくもないしどうでもいい。
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