87人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
男が発する空気が変わった。突如吹き始めた風が土を巻き上げていく。男の腕は、数多の管が張り巡らされた剣に変化した。眩しい太陽の光に反射するその刃は、ゆらりと俺に向けられる。
「この地は今や私のものだ。立ち入るものは、何者であろうが片すのみ」
平坦な声にぞくりと背筋を何かが駆けた。
「貴様を守るアンドロイドも今は動けまい。そのうえ、生身の人間がこの私に勝てるはずもない。貴様ら哀れな人間は、盾となるアンドロイドが居なければ吹けば飛ぶ紙切れのようなものよ」
盾となるアンドロイド。
その言葉で、脳裏に黒髪の彼が浮かぶ。最後の最後で、俺を庇ってその役目を終えた彼のことを。
目の前の男が、地を蹴った。俺は攻撃に備えて剣を強く握る。
――しかし、気が付いたら男は目の前にいた。
「なっ――」
「マスター!」
体が砕け散りそうなほどの衝撃。
誰かの叫びと共に、俺の体は遠く吹き飛ばされる。崩れた建物に激突したのか、頭に鋭い痛みが走った。
立たなければ。剣を握って、あの男を倒さなくては。
そう思っているのに、俺の視界は急速に暗くなっていく。
意識を失う瞬間、懐かしい優しい声が聞こえたような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!